BE*5

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なんて下品な女(後編)

「ん、ふ……」
 ……舌と舌が鍵のように絡み合う。ベジータの口中から流れ込む唾液がとても熱い。生き物のようだ──ブルマは思った。自分の口の中なのに、自分の意志のまるで届かない生暖かい生物が居るようだ。二人の舌がとろけて一つの粘着質な物体に変わってしまったのかと思える程の──顔中が熱い。一瞬唇が離れた時に不規則に頬を伝う唾液、自分の漏らす吐息、ふっと彼の鼻息がかかったところ、密着した肌と肌の間で行き場をなくして渦巻くお互いの体温、すべてが燃えるように熱い。耳の中で自分の喘ぎ声と粘液のクチャクチャという音が反響していて他には何も聞こえない──
 ベジータはブルマの唇全てを征服すると、すじを描くように顎、首筋、肩へとその舌を移動させた。
「ふっ……や、ベジータ、だっ……あはぁっ」
「まったくきさまはお喋りな女だな……」
「だって……ああっ」鎖骨の上を唐突にきつく吸われ、ブルマは鋭く呻いた。
 ベジータは赤く色づいたその部分をペロリとひと舐めし、うなじに顔を埋めたまま左手をワンピースの裾に潜り込ませる。
「は……ん」
 ……ゆっくりと太ももを這い上がる。身体の中央に近付くにつれ温度と湿度が高まっていく。女とはこれほど柔らかいものだったろうか──ベジータは思った。筋肉の鎧に包まれた自分とは違う柔らかでしなやかな触感、ふと指に力をいれた時の思いがけない弾力──
「んっ」
 両足の間に指の関節がコツンと触れ、ブルマは短い声をあげた。長い口づけのせいか、下着はすでにじっとりと湿っている。ベジータの指はわざとそこを素通りし、脇腹をさぐった。
「はぁ……」
 物足りない刺激に焦れたのか、ブルマはもぞもぞと身体をよじった。そのよじりに合わせベジータはワンピースを胸元までたくし上げて、そのまま一息に脱がせてしまった。
「あっ……!」
 ブラジャーをしていなかったブルマは咄嗟に両手で胸を覆う。それがベジータには意外な反応だったのか、彼は「なんだ、恥ずかしいのか?」とからかいの言葉を口にした。
「……ち、違うわよ、寒いだけよ! 私のナイスバディーが間近で見られるんだからもっと感謝しなさいよね!」
「はっ、相変わらずだな」
 ベジータはニヤリと唇の端を上げると、おもむろに彼女の腕を押しのけ片方の胸を鷲掴みにした。
「え? あっ、痛つっ──」
 彼はブルマの反応を見ながら指先に少しずつ力を込めた。柔らかく大きな胸が五本の指にしぼられるように歪み、白い肌は見る見る赤みを帯びていった。ベジータがその気になれば、胸を握り潰してしまうなどはほんの容易いことだろう。だがブルマは彼の手──彼自身──が恐いとは思えなかった。ただ胸に滲む鈍痛に小さな呻きを漏らし、仰向けのまま、薄く開いた瞼の内から彼の姿を見上げていた。
(恐くはないのだろうか……この女は……)
 ベジータは彼女を見下ろしながら、思いはかることの出来ない不思議な感覚を味わっていた。ブルマの目を、その瞳に現れる色を、どう表現すればいいのだろうと。恐怖に脅える目、媚びを売る目、怒りに満ちた憎しみの目……今まで見て来たどんな瞳とも違う。
「………………」
 ベジータは手から力を抜くと、身を屈め、鬱血しピンと勃った胸の先端に唇を押し当てた。
「ふぁ……ぅ、ふ…………!」
 鈍痛が一転、塞き止められていた血液が勢い良く流れ込むとともに快感に変わる。思わずよがり声を漏らしたブルマは、胸の上を這う彼の頭を抱きしめた。硬質な髪が素肌の腕をチクチクと刺すその軽い痛みすらも、すでに鋭敏になってしまった感覚の上では容易に気持ちよさへと変わった。口中で絡み合ったばかりのベジータの舌が乳首の周りで円を描けば、その動きに合わせるかのように、唇で味わった熱い感覚がブルマの内部でも放射状に広がっていった。
 ベジータは彼女の胸に吸い付きながら、片腕を彼女の足と足の間に忍ばせ、先程とは正反対の静かなタッチで下半身をまさぐった。
「ぁくっ……!」
 一度は素通りされ濡れるままになっていた部分に、今度は確かに指が触れる。指の腹が下着のふちをなぞり、ざわめくような触感とともに徐々に中央に向かって移動する。
 ブルマは我慢出来ず腰を浮かせた。ベジータはその隙に背中に手を回し、彼女の下着をずり降ろした。クチャリという音ともに引いた透明な糸が、ブルマの内腿を冷たく濡らした。
「ベジー……タ……」
 ベジータは熱を帯びた視線に思わず息をのんだ。だがすぐに気を取り直し、彼女の左足にまたがって剥き出しになったそこへ右手を伸ばした。愛液は既に襞の周囲まで潤しており、彼の中指は力を入れるまでもなくぬるりと何の抵抗もなく滑り込む。
「あ、く……」
 指先に神経を集中させ中の壁をこすりながら薬指も挿入すると、ブルマは思わず堪えていた声を漏らした。
「う……ぁ……」
 ベジータは指をゆっくりと回転し、次第に速度を上げながらピストンさせた。鍛え上げられ骨張った指が膣口を出入りするたび、二本の指の間に絡まって粘り気を増した粘液がぐちゅりぐちゅりと音を立てる。
「ふぁっ! ……ん、…………んんぅ」
 ブルマの膝頭は電気刺激を受けたかのようにブルブルと震え、食いしばった唇からは、ふぅ、くぅ、と鼻にかかった呻きがひっきりなしに漏れた。整えられた爪の先が、ベジータの背中にグッと食い込む。
 するとベジータはふいに動きを止め、ブルマから身を離した。
「我慢するな」
「ぅ、え?」
「……声のことだ」外に出ていた親指がブルマの最も敏感な部分をピンとはじく。
「ぁうっ! ……だ、だって、お喋りとか……言ってたじゃない」
「フン……」
「んあぁ!」
 どうしようもなく厭らしい声を、もっとオレに聞かせろ!──そう言うかわりに、ベジータは指の動きを早めた。同時に親指で包皮ごと花芽をこすり上げ、手のひらで襞をなぶる。
「はぁ、んあぁっ、きゃうっ、……ベジっ……ぅあ!」
 ビクリと身体を振るわせたブルマの左足に、熱い塊の感触がぶつかった。ブルマは激しい快感に翻弄されながらも、彼もまた感じているという事実──その予想外の固さは彼の引き締まった筋肉を連想させるほどだった──に何処か喜びを感じていた。
 ブルマは思わず彼の頭を自分の顔に引き寄せた。耳元で響く彼女の喘ぎや吐息、その温度が、ベジータの愛撫をますます激しいものとさせる。
「あひっ、ぃ、あぁあ……ベジータっ、も、もう、だめぇ……!」
 ブルマは彼の下で、腰と足を突っ張り身を引きつらせた。ベジータの指にドッ、ドッ、ドッと波打つような感触が伝わり、次第に間隔を狭め痙攣のようになる。彼は仕上げに、親指にグッと力を入れた。
「んー……………………っ! はっ、は、ハァ……ぁ……」
 長く細い喘ぎの後、ブルマの身体からフツッと力が抜け、ベジータの指はやっときつい締めつけから開放された。いまだ余韻にうち震えるその場所から指がずるりと引き抜かれ、ブルマは思わず声をあげる。
「ふ、ぁ……」
「む……」
 引き抜いた右手は泡立った愛液で手首までドロドロになっていた。ベジータは、何の躊躇もなく自らの舌で愛液を舐めとった。


 目の前に裸のベジータがいる。闘うことに特化されたその肉体は、昔美術書で見たギリシャ彫刻とも、ボディビルダーの無節操な筋肉とも違っていた。ブルマはそのあまりの逞しさにごくりと唾を飲み込み、緊張をとこうと下半身から力を抜いた。
 彼のそれは特別馬鹿みたく巨大というわけではなかったが、臍につく程膨張した様子は小柄な体型からは想像がつかないものだった。入り口に亀頭を押し当てられただけでもその質量がわかる。
 挿入寸前、彼女はふとあることを思い出し、唐突に笑い声を上げた。
「ふふ……」
「何がおかしい?」
 急に笑みをこぼしたブルマに、彼は陰部にあてがった手を止める。
「ごめん、違うのよ。ちょっと思い出し笑い。あのねえ、ナメック星人って男も女もないんですってよ。口から卵を産むんだってさ。だから恋だの愛だのもないのよ、つまらないと思わない? サイヤ人もそういう人種だったらちょっと困ったわね」
「ふん、下らん……」
「ん、あぁっ!」
 瞬間的にブルマの膣内は熱い肉感に満たされ、彼女はふいをつかれて大きくのけぞった。
 一人で繁殖が出来る、なるほど効率がいいかもしれない──そう思いながらもベジータの腰は理性を離れたところで動き続ける。ブルマの、一度絶頂に達し嫌でも敏感になっているそこに、ベジータの固く熱いものが激しく出入りする。
「ベッ、ベジッ、激しっ……!」
 ブルマのうわずった声にハッとしたベジータは腰の動きを止めた。ほんの数秒突かれただけなのに、もうブルマの腰は痺れかけていたのだ。
「チッ、強くなり過ぎるのも厄介だな」
 そうつぶやくと、ベジータは一転壊れ物を扱うかのようなゆっくりとしたストロークに変えた。
「ん、あっ……」
 それは普段の彼からは思いもよらないほど丁寧な仕草で、一人の人間の女性を満足させるには充分のものだった。
 だが、ブルマはしばらく快感に酔いしれたあと、乱れた息を必死で整えながら言った。
「……いいよ」
「なんだ?」
「めちゃめちゃにして、いいよ……ベジータ、こんなもんじゃ満足できないんでしょ? だから……」
 その言葉に驚きを隠せないベジータの下で、ブルマは汗にまみれ真っ赤になった顔に挑発的な笑みを浮かべた。ベジータはそんなブルマの顔を真っすぐに見つめると、体勢を整え、自らの両手で彼女の細いウエストをガッチリと掴んだ。
「……どうなっても知らんぞ」
「うあっ!」
 言うが早いか、ベジータはいったんギリギリまで引いた腰を一気に打ち付けた。
「ああーっ! ひっ、ぃあっ、あ、ぅんんっ」
 今まで異物の届いたことのない身体の奥に、今まで経験したことのない速度で、はち切れんばかりに張りつめたベジータのものが打ち込まれる。そのあまりの衝撃に、ブルマは我を忘れてよがり叫んだ。
 ぶつかりあう汗ばんだ肌と肌、骨と骨の感触は、ベジータにとって、死と隣り合わせの激闘で味わうそれとは全く違う甘美なものに思えた。相手の叫びは死の恐怖からくるものよりもずっと官能的であり、ずっと己を興奮させた。
 ブルマは朦朧としながらも、合わせた肌から伝わる彼の鼓動を感じていた。遠からずこの鼓動が止まることがあるのだろうか。彼は『普通の男』ではない、戦士なのだ──だがそんな戸惑いも、快感の波には勝てずにあっという間にかき消されてしまう。彼女に出来ることはもう、必死にベジータにしがみつき、彼の名を呼ぶことだけだった。
「あっ、あぅ、あはぁっ! べ、ベジータぁ!」
「くっ……ブル、マ……」
 ブルマはとうとう途切れそうになった意識の片隅で、身体の奥に広がる熱い感触と骨のきしむ鈍い痛み、そして彼がはじめて口にした自分の名を微かに聞いていた。


「すご……寿命が縮まったわ」
「ふん、きさまが望んだことだ」
 ブルマが目を覚ました頃にはすでにベジータは衣服を身につけ、ベッドから離れて一人窓際に佇んでいた。つい数時間前寂しそうだと感想を述べたことが間違いだったかのような、隆々として自信に満ちた背中。
 その背中を眺めるうちに、ブルマは今日あれ程自分を翻弄させた悩みの原因に思い当たった。ブルマは彼が居なくなることよりも、彼が強くなることを諦めて逃げてしまうことが辛くてたまらなかったのだ。そんな人はベジータではない。そしてベジータはけしてそんな人間ではないことを充分に知っていたはずなのに、自分は何故こんなに動揺したのだろう──ブルマはすぐにその理由に気がつき、ふっと笑みを漏らした。
(しゃーない、ウーロンには一応感謝しておくか)
 ブルマは上半身だけを起こすと、つと肩ごしに振り向いたベジータに言った。
「わかってるわよ、別にあんたに責任とれなんて言わないわよ。私がベジータに抱かれたいって思ったからこうしたの。でもだからって、これっきりだなんて言わないわよ」ブルマは改めてベジータの瞳を見つめる。「私、あんたのこと好きみたいだから」
「! ……か、勝手にしろ」
 もしかして赤くなっているのかしら──ブルマは彼の人間らしい一面に何だか無性に嬉しくなった。そう言えば彼が二度目に地球に降り立ったあの日も、こんな風に照れていたことを思い出す。ぷいとそっぽを向いてしまったベジータの表情は、薄暗い明かりしかないこの部屋ではわからない。このまま明日になればカプセルコーポレーションに彼の姿はないだろう。見納めかもしれない。だがベジータはきっとこの場所へ帰ってくる、今よりもっと強くなって──揺るぐことのない絶対の自信を手に入れて──ブルマはベジータの後ろ姿を眺めながら、心から安心し穏やかな眠りについた。

 ベジータは窓辺に立ち、月のない夜空を黙って眺めた。その後ろでは、先程まで激しく抱き合ったベッドでブルマが寝息を立てている。以前ならおぞましい大猿に化けていたその身体には最早なんの反応もない。窓ガラスに映る姿はただのベジータという人間だ。サイヤ人のもっとも象徴たる尻尾は、地球の月や帰るべき星と同じくなくしてしまった。そのことについて、ベジータはとり立てて心動くことはなかった。悲しみも怒りも、郷愁の想いすらない。
(どういうことだ、こいつらはオレを憎んでいたんじゃなかったのか? わからん、地球人というやつは……)
 今のベジータの中には、戦闘後の疲れとは違う心地よいほてりと、地球人に対する不思議な感情だけがあった。
(しかし考えようによってはチャンスかもしれない……地球人との混血は正直言って胸くそ悪いが、サイヤ人の血がいずれ下級戦士であるカカロットの一族だけになってしまうのは気に食わないからな。それにあの悟飯とかいうガキ……地球人とサイヤ人の混血児の戦闘力はあなどれない。天才のオレの血を引く子どもならば、もっと……)
「勿論──」ガラス窓に映るサイヤ人の王子は、クッと笑みを漏らした。「ナンバーワンはオレだがな」
 その時、寝ていたブルマがクシュンと小さなクシャミをした。そっと振り返ると、彼女は掛かっていた毛布を跳ね上げてしまっている。
「ったく……、下品な上に寝相の悪い女だ」
 ベジータはいつもの悪態をつきながらもブルマの側へ立った。地球人に対する不思議な感情──地球人の女、あられもなく下品なふるまいをし我が侭で尊大で高慢な、いつでも自分に正直なブルマに対する、今まで経験したことのない感情──が、理性が止める間もなく彼の心に浸潤していく。
「………………はっ!」
 我に返ったベジータの目に映った光景は、本日三度目の──そして今までの生涯で一番の信じられない行動をとろうとしている自らの両手だった。
「お、お、オレは何をしているんだ?」
 なんと彼の手は、ブルマの跳ねた毛布をそっと掛け直してあげようとしていたのだ。
「う、うおーっ! オレは誇り高きサイヤ人の王子なんだーっ!」
「うぅん、うるっさいなあ……」
 ベジータがガンガンと壁に額を打ち付けるさなか、何も知らないブルマは毛布を抱き込んで再び深い眠りへと落ちていくのだった。

 こうして急速にはじまった二人の関係は、上手く行くかもしれないし、行かないかもしれない……。それはピッコロと悟空のみぞ知る話だ。

 一方その頃西の都の外れでは──
「な、なあプーアル、そろそろほとぼりも冷めた頃かなあ? 今謝れば許してくれると思うか?」
「さ、さあ……」
 浮気相手のマンションをも追い出されたヤムチャが、うら寂しげに輝く星空の下、プーアル相手に情けない恋の相談をしているのであった。
 ──終わった恋とも知らずに。

おしまい。

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